離婚する夫婦に未成年の子どもがいる場合、離婚するに当たってはどちらが親権者になるかを決定しなければ離婚することはできません。そのため、夫婦間では離婚することが合意されていても、どちらが親権者になるかをめぐって争いがある場合には、離婚することができません。
その場合には、夫婦間で納得のいくまで協議して親権者を定めるか、裁判所の関与のもとで親権者を決定することになります。
ただし、親権に争いが生じると、離婚成立までに時間がかかることが多く、その間、子どもに不安定な状況を強いることになりかねません。子どもとってより良い解決を目指すことが大切です。
裁判所の関与のもとで親権者を定める場合には、夫婦のうち、どちらが子どもの親権者としてふさわしいかという親権者の適格性を「子どもの福祉」(その子どもにとって最善の利益は何か)いう観点から判断していきます。
その際、裁判所は、一般的に次の事項を判断要素として総合的に判断しているといわれています。
①父母側の事情
- 監護能力(年齢・性格・教養・健康状態等)
- 精神的・経済的家庭環境(資産・収入・職業・住居・生活態度・実家の資産等)
- 居住環境・教育環境・養育方針(祖父母や兄弟姉妹等の親族による支援等含む)
- これまでの監護状況とその理由
- 子どもに対する愛情の程度
②子ども側の事情
- 年齢・性別・心身の発育状況
- 現在の環境への適応状況・環境の変化に対する適応性
- 子どもの意思・意向(15歳以上は必要的、10歳程度で意思確認を実施)
- 父母や親族等との情緒的結びつき
上記に加え裁判所が重視する原則
❶継続性の原則
これまで実際に子どもを監護養育してきた者を優先させるという考え方です。
これまで実際に子どもを監護養育してきた者を優先させるという考え方です。
現在の養育環境で安定している親子関係に変更を与えることは、子どもの情緒を不安定にし、子どもの人格形成上好ましくないという理由からです。
❷子どもの意思の尊重
15歳以上の子どもの場合、子どもの意思を確認することが法律上規定されています(人事訴訟法32条4項)が、裁判所は、1 5歳未満の子どもであっても10歳程度であれば、子どもの意思を確認しています(確認は専門家である家庭裁判所調査官が実施します)。
❸兄弟姉妹(きょうだい)不分離の原則
子どもに兄弟姉妹がいる場合、これを分離しないようにする傾向があります。兄弟姉妹は精神面や情緒面のつながりが強く、分離することで子どもの精神面に影響が及ぶ心配あるからです。
子どもに兄弟姉妹がいる場合、これを分離しないようにする傾向があります。兄弟姉妹は精神面や情緒面のつながりが強く、分離することで子どもの精神面に影響が及ぶ心配あるからです。
反面、長年にわたり別々に生活して、つながりがあまりないと考えられる場合にはこの原則は重視されません。
❹母性優先の原則
乳幼児については、母性によるきめ細やかな監護養育が不可欠であるから、特段の事情がない限り母の監護養育にゆだねることが子どもの福祉に合致するという考え方です。
もっとも、母性的な役割をもつ主たる監護者が父親であるという家庭も増えてきています。
そのため、親権者を父母のいずれとすべきかについては、子どもの具体的な監護状況や子どもとの精神的・情緒的な結びつきの程度などから、慎重に判断すべきであるとされています。
そのため、親権者を父母のいずれとすべきかについては、子どもの具体的な監護状況や子どもとの精神的・情緒的な結びつきの程度などから、慎重に判断すべきであるとされています。
※1 不貞行為をしてしまったら親権者となれないか?
「不貞行為をしてしまった」ことだけで親権者となれないわけではありません。
親権者として不適格な理由としては単に不貞行為があったというだけでは足りず、不貞行為をしていたことによって子どもの監護養育がないがしろにされたなどの事情が必要とされています。
離婚の有責性は親権者の指定の判断時にはあまり考慮されず、子どもの意思や子どもと親との情緒的結びつき等の主観的要素を重視する傾向があるといわれています。
※2 専業主婦だと親権者となれないか?
離婚後の経済状況についても判断の一要素となりますが、「専業主婦だと親権をとれない」ということはありません。そのため、専業主婦だからと親権を諦めるべきではありません。
親族から援助が受けられる場合や離婚後には就労する可能性のある場合(大多数の方々がそうされるでしょう)には、現在専業主婦であるというだけで親権者として不適格とは認められません。
また、親権者でない親から養育費の支払いを受けることができますので、経済状況としてはこの点も考慮されることになります。
※3 父親だと親権者となれないか?
上記のとおり、乳幼児の場合には母性優先の原則が働きますが、父親であっても母性的な役割を果たしてきたなどの監護養育実績がある場合には、子どもの具体的な監護状況や子どもとの精神的・情緒的な結びつきの程度などから、父親であっても親権者となりえます。
当事務所でサポートした結果、父親側であっても親権を獲得した事例はあります。
1.養育費について
養育費とは、未成年の子どもが生活するために必要な費用(監護費用)です。民法上、親は子に対する扶養義務を負い(民法877条1項)、離婚後に親権者として指定されなかった場合も変わりません。親権者は子どもを監護養育する義務がありますが、離婚後に親権者とならなかった親は、子どもを監護する他方の親に対してお金を支払うことで養育義務を果たしていくことになります。
養育費の支払義務は、「生活保持義務」と言われ、義務者は子どもに対して自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務があります(ただし、子どもの養育に要する費用すべてを負担すべきということではありません)。
2.養育費の額
養育費の金額は、当事者間で自由に決めることができますが、実務上は、ほどんどが「養育費・婚姻費用算定表」(以後、算定表といいます)に基づいて決定しています。この算定表は、非監護親(養育費の支払う義務者側)と監護親(養育費を求める権利者側)の収入、子どもの年齢、人数を考慮して養育費を算定したもので、インターネット上でも公開されています。
(詳細はこちら⇒養育費・婚姻費用算定表)
※正確な養育費の額を確認されたい場合には、夫婦双方の収入を示すもの(最新の源泉徴収票や所得課税証明書等)をご相談時に持参願います。
子どもの人数が多い場合には、算定表を直ちに適用することができませんので、その場合は計算式を用います。詳しくは弁護士にお尋ねください。
算定表を用いて一例を見てみます。
・子ども:2人 第1子(11歳) 第2子(9歳)
・養育費を支払う側(義務者):給与収入(会社員)/年収600万円
・養育費をもらう側(権利者):給与収入(パート)/年収100万円
上記ケースですと、子どもがいずれも14歳以下ですので、
・養育費を支払う側(義務者):給与収入(会社員)/年収600万円
・養育費をもらう側(権利者):給与収入(パート)/年収100万円
上記ケースですと、子どもがいずれも14歳以下ですので、
「表3 養育費・子2人表(第1子及び第2子0~14歳)」に該当し、義務者及び権利者双方の年収が交わる部分の養育費の金額は月額8~10万円になります(これは子ども2人分の合計金額です)。
3.養育費の支払期間(始期・終期)
養育費の支払期間は、終期を子どもが20歳になる月までとすることが一般的ですが、18歳まで(高校卒業する3月まで)とするケース、大学を卒業する月の3月までとするケースもあります。
養育費の支払義務の始期は、子どもがその親と同等の生活を保持していないときから生じるとされ、実務上は、明確性の観点から、「権利者が請求したとき」(通常は調停や審判を申し立てたとき)に支払義務が生じるとすることが多いです。
養育費の終期は、子どもが自ら生計を立てるようになったときであり、通常は20歳を迎え成人になったときです。上記のように、高校・大学卒業時の3月とすることもあります。
4.取り決めの方法
養育費は、子どもの生活のための費用ですので、離婚時か、離婚後なるべく早い時期にきちんと取り決めるべきです。養育費の取り決め方法自体は口頭であっても書面であってもかまいません。
しかし、養育費は子どもが自ら生計を立てるようになるまでの長期にわたって支払われるべきものですので、より確実な方法として、できうる限り公正証書(強制執行認諾条項付き)を作成するか、家庭裁判所における調停等による合意をすることが望まれます。これらの方法で合意をしておけば、万一養育費の支払いが止まった場合には、給与の差押さえなどの強制執行が可能になります。
養育費は子どもの生活のために不可欠な費用ですが、途中で支払いが止まってしまうケースは珍しくありません。養育費についてはきちんと取り決めをし、万一支払いが止まった場合にも対応できるように準備をしておくことが重要です。
1.面会交流について
別居や離婚によって監護養育していない子どもに会うことを、「面会交流」といいます。
夫婦間でトラブルがあったり、離婚をしたりしていても、子どもにとって双方が大切な親であることにかわりはありません。そこで、子どもと離れて暮らすことになった親にも、子どもと面会等を行う権利が認められています。
2.面会交流の方法や取り決め方
面会交流の方法や取り決め方について、特に法律では規定されておりません。
夫婦双方で話合いをして取り決めることもできますし、話合いで決めることができない場合には、家庭裁判所に面会交流の調停を申し立てて、調停において協議して取り決めることもできます。
夫婦双方で話合いをして取り決めることもできますし、話合いで決めることができない場合には、家庭裁判所に面会交流の調停を申し立てて、調停において協議して取り決めることもできます。
3.面会交流の制限
面会交流の調停が申立てられた場合、家庭裁判所では、「子どもの福祉」を最優先に考えて、明らかに子どもの福祉を害しない限り、つまり、面会交流を実施することが子どもの平穏な生活や精神的、情緒的安定を揺るがし、ひいては子どもの健全な成長を妨げるおそれが強いという事情がない限り、面会交流を認める立場をとっているといわれています。
そのため、面会交流が制限される例としては、同居中に子どもに対して虐待をしていた場合などが挙げられます。
一方、配偶者に対して暴力をふるっていた場合(DV)は、子どもを虐待していた場合と全く同じには考えられませんが、DVを目撃し、子どもが面会に恐怖心をもつような場合には、面会交流が制限されることもあります。
一方、配偶者に対して暴力をふるっていた場合(DV)は、子どもを虐待していた場合と全く同じには考えられませんが、DVを目撃し、子どもが面会に恐怖心をもつような場合には、面会交流が制限されることもあります。
これに対し、不貞行為を働いた場合や今まで子どもの面倒を見てきたことがないという理由だけでは、面会交流は直ちに制限されません。
4.面会交流と子どもの意向
子どもがある程度の年齢(10歳程度)になっていれば、面会交流にあたって子どもの意向が尊重されてきます。低年齢の子どもは、親、特に同居している親の考えに影響されることが多いといわれており、子どもが別居している親に会いたくないと言う理由や原因を慎重に見極める必要があります。
子どもの意向を確認することが困難な場合には、家庭裁判所の調停等の中で、「調査官」という専門家に関与して調査をしてもらうことが多くあります。
1.親権者の変更が認められるために
離婚の際、夫婦のどちらが子どもの親権者になるかについては、原則として当事者の話合いで決めることができます。しかしながら、離婚後に一度取り決めた親権者を変更する場合は、必ず、家庭裁判所での調停・審判の手続を経る必要があります(夫婦間の合意があっても家庭裁判所での手続が必要)。
そのため、親権者の変更は、離婚の際の親権者決定よりもそのハードルは高くなっています。
親権者の変更が認められるのは、子どもの福祉が害されるような事情が生じた場合であり、次の事情が挙げられています。
・親権者が病気に罹患したり、所在不明になる等して親権者としての職分を果たすことができなくなった
・子どもに対する監護を放棄していたり、暴力を加えたりする等して虐待している
・子どもに対する監護を放棄していたり、暴力を加えたりする等して虐待している
上記のような事情がない場合には、親権者の変更は認められにくいといえます。
2.離婚後に親権者が死亡・行方不明になった場合に他方親が親権者になれるか
→この場合でも、親権者ではない親が当然に親権者になることはできません。あくまでも自分自身を子どもの親権者に定める審判(親権者の指定または変更)を家庭裁判所へ申立てる必要があります。
一方、死亡した親権者に代わって親権者側の親族(子どもからみれば祖父母等)が子どもの面倒を見ている場合には、未成年者後見人選任の審判を家庭裁判所に申立てることで、これまでの監護養育を継続していく場合もあります。 この場合、親権者ではありませんが、法定代理人たる後見人として未成年者の身上監護を行うこととなります。
未成年後見人選任申立てと親権者変更の審判が重複した場合、家庭裁判所は、子どもの福祉の観点から、どちらに子どもの監護を担わせることがよいのかを判断することになりますので、必ずしも血縁上の親に親権が変更されるわけではありません。また、子どもの年齢がある程度に達していれば、子どもの意向も家庭裁判所の判断に影響を与える可能性があります。
離婚後の養育費の支払は、子どもが成人に達する等の長期間行われるのが通常です。時間が経つと支払義務者(養育費を支払う側)の生活状況や経済状況が変化することもあり、その支払が滞ってしまうことも少なくありません。養育費の支払が滞った場合の対処方法は、離婚の際に養育費についてどのような取決めをしたかによって大きく変わりますので、離婚する手続(協議・調停・訴訟等)を慎重に選択する必要があります。
1.家庭裁判所で養育費を取り決めた場合
家庭裁判所の手続(調停・審判等)を利用して養育費を取り決めた場合には、家庭裁判所から相手側に養育費を支払うように督促してもらう「履行勧告」という手続きをとることができます。
履行勧告によっても支払がない場合や、履行勧告をしても支払が期待できない場合には、強制執行手続をとることになります。
強制執行をするためには「債務名義」(判決・調停調書・和解調書等)が必要になります。
強制執行の方法としては、相手側の預貯金を差押さえる、給与債権を差押さえて相手側の職場から直接自分に支払ってもらうようにするなどの方法があります。
2.家庭裁判所以外の場合
家庭裁判所での手続を経ずに話合いで離婚した場合(協議離婚)には、履行勧告の手続きをとることはできません。また、強制執行については債務名義があれば手続きをとることができますが、協議離婚の場合に債務名義があるのは、離婚の際に公正証書(正確には強制執行認諾条項付きの公正証書)を作成した場合だけです。
債務名義がない場合には、直ちに強制執行を行うことができませんので、まず養育費の支払いを求める調停を申し立てて、家庭裁判所の手続を経る必要があります。
将来の養育費の確保の視点からこちらについてもご参照ください。